社会変革デザイン研究所

1. ソーシャルグッドとの違い：単なる「良いこと」を超えた「設計された変化」

「ソーシャルグッド」は、「社会（social）」に対して「良い（good）」影響がある活動や商品の総称であり、環境問題、人種差別、地域活性化、育児・介護など、地球が抱える様々な課題解決を目指す取り組みを含みます。無印良品の地域活性化への貢献や、ユーグレナの栄養問題解決プログラムなどがその事例です。

一方、「社会変革デザイン」は、このソーシャルグッドの目指す「良い影響」を、より意図的かつ体系的に「設計」し、具体的な「変化」として社会に「実装」するプロセスです。単発的な慈善活動や、結果として社会に良い影響をもたらす一般的なビジネスとは異なり、変化そのものをデザインの対象と捉え、その実現可能性と持続可能性を追求します。

2. SDGsとの違い：抽象的な「目標」を具体的な「行動」へ

SDGs（持続可能な開発目標）は、2015年に国連で採択された、2030年までに達成すべき17の国際目標です。環境、貧困、不平等など多様な分野の課題を網羅的に把握するための「発想のカタログ」として非常に有効です。

しかし、SDGsの目標は抽象的で広範なため、そのままでは具体的な事業に変換しにくいという側面があります。

「社会変革デザイン」は、この抽象的なSDGsの目標を、デザイン思考のプロセスを通じて具体的な解決策へと落とし込みます。特に、顧客自身も明確には気づいていない潜在的なニーズや、「お金を払ってでも解決したい」と強く願う「たった1人」の具体的なニーズを起点に課題を深く掘り下げることで、SDGsの目標を「自分ごと化」し、ビジネスとして成立するレベルまで具体化します。例えば、issue+designが開発した「SDGs de 地方創生」は、カードゲームというゲーミフィケーションを通じて、SDGsの包括的なアプローチを体感的に学ぶことを目的としています。

3. サステナビリティ／エシカルとの違い：指針から「実現するアプローチ」へ

「サステナビリティ」や「エシカル」は、持続可能性や倫理的な配慮といった価値観や指針を示す言葉です。これらは企業活動や消費行動において、環境や社会に対する責任を重視する考え方であり、社会変革デザインにおいても重要な要素となります。

しかし、これらの言葉は「何を大切にするか」という目的や価値観を表現するものであり、「どうやってそれを実現するか」という具体的な方法論を直接示すものではありません。「社会変革デザイン」は、まさにその「どうやって」の部分、つまりサステナブルやエシカルな社会を実現するための体系的な思考プロセスと実践アプローチを提供します。

課題起点のアプローチと真のニーズの発見

表面的な問題だけでなく、ユーザーへの深い共感（Empathize）に基づき、彼らが本当に抱える課題や潜在的なニーズ、さらには「お金を払ってでも解決したい」と強く願う「たった1人」の具体的なニーズを深く掘り下げます。

デザイン思考の「5つのステップ」や「ダブルダイヤモンド」といった、体系化されたフレームワークを活用しつつ、ユーザーインタビューや共感マップ、ジャーニーマップなどを通じて、課題の本質を多角的に理解します。

持続可能なビジネスモデルの構築

「社会変革デザイン」は、社会課題の解決を第一の目的としつつも、事業を通じて収益を確保し、長期的に事業活動を継続できる仕組みの構築を重視します。

一時的な援助ではなく、事業性と社会性の両立を図ることで、自律的な活動を可能にします。

資金調達には、日本政策金融公庫の「ソーシャルビジネス支援資金」のような融資制度やクラウドファンディング、助成金などが活用されます。事業計画の策定を通じて、定性的・定量的な要素を盛り込んだ説得力のある説明が重要です。

革新性（イノベーション）と新たな価値創造

社会に新たな価値をもたらす「イノベーション」を誘発・促進するためにデザイン思考が活用されます。

既存の枠にとらわれず、新しい社会的商品やサービス、あるいはそれらを提供する革新的な仕組みを開発・活用します。

例えば、地域の固有資源（食、生業）を活かした取り組み や、複数の地域課題を同時に解決する「統合型アプローチ」、デマンド交通や交通DXといった代替交通手段の模索などが挙げられます。

北海道では、広大な農地を活かした「スマート農業」の導入が進められており、ICTやロボット技術で担い手不足や高齢化の問題を解決し、大規模化を推進する事例があります。

共創（Co-creation）による多角的な連携

社会課題の解決には、地域住民、NPO法人、企業、行政など、多様なステークホルダーが「共助共創」する社会の実現が不可欠です。

企業と社会課題解決に取り組む団体との連携は過去最高を記録しており、これにより「信頼度の向上」「認知度の向上」「社会的インパクトの増大」といった効果が報告されています。

また、NPOバンクによる専門的なスキルを持つボランティアスタッフ（momoレンジャー）による伴走支援は、ソーシャルビジネス事業者と地域金融機関の間のギャップを埋める役割を担っています。

国も「地域包括ケアシステム」の構築を目指し、地域全体での包括的な支援・サービス提供体制を推進しています。

「社会実装」による具体的な影響と「見える化」

考案された解決策が実際に社会に導入され、広く普及することを目指します。

企業が社会貢献活動を社会に「見える化」することは、信頼度向上や実力のアピールに繋がり、支援の輪を広げる上で非常に重要です。

Yahoo!天気・災害の災害マップがユーザー投稿を活用して災害状況の把握を支援し、「一人でも多くの命が助かる未来へつなげる」ビジョンを掲げるように、データ可視化は社会課題の全体像を理解し、ユーザーの行動変容を促す重要な手段となります。

ソーシャルビジネスは外部から見えにくいため、情報発信により、取り組んでいる問題の可視化、事業の見える化を進めることが求められています。