社会変革デザイン研究所

なぜ“社会の変革”には”デザイン”が必要なのか。3つの理由で解説。

社会変革デザイン研究所:なぜ“社会の変革”には”デザイン”が必要なのか 投稿アイキャッチ

社会を変えるために、社会の構造を理解し、“構造の設計者”となる

今日の社会は、超高齢化問題や社会保障費の増大、人材不足といった「2025年問題」、気候変動、人口減少、地域活性化、貧困、教育格差など、複雑で多様な課題に直面しています。このような不確実性の高い「VUCA時代」において、企業や組織、さらには地域全体が持続的に価値を創造し、イノベーションを起こすためには、「デザイン思考」の戦略的活用が不可欠であるとされています。


デザイン思考が社会に求められる理由

デザイン思考とは、デザイナーがモノづくりを行う際の思考法をビジネスに応用できるように体系化したものであり、「ユーザーも気づかない本質的なニーズを見つけ、変革させるイノベーション思考」と定義されます。なぜこの思考法が現代社会において重要なのでしょうか。

大きく3つの観点があります。

1:人間中心のアプローチで潜在的ニーズを発掘する

従来の分析的手法では捉えきれない潜在的なニーズや感情的なインサイトに焦点を当てるのがデザイン思考の特徴です。単に「何が欲しいか」を尋ねるのではなく、人々の「気づかれていない課題」や「お金を払ってでも解決したい」と強く願う「たった1人」のニーズを深く掘り下げます。これにより、表層的な問題解決に留まらず、「顧客にとって意味のある体験価値」を発見し、持続的な事業価値へと転換することを目指します。例えば、インドの電力インフラが未整備な地域において、夜間でも子どもに勉強させたい親の強いニーズに着目し、太陽光充電式のLEDランプを開発したパナソニック社の事例などが挙げられます。

2:イノベーションを持続的に生み出す

デザイン思考は、単なる「創造的発想法」ではなく、不確実性の高いビジネス環境においてイノベーションを持続的に生み出すアプローチとして評価されています。特に、既存市場を破壊し、新たな価値観を持つ製品や使い方を提案する「破壊的イノベーション」において、デザイナーの「クリエイティビティ」が重要な役割を果たします。これは、顧客の要求が明確ではない状況下で、既成概念にとらわれずに新たな解決策を見つけ出す能力が求められるためです。

3:複雑に絡み合う社会課題に対応する

「生態学的アプローチ」 子育て、介護・福祉、街づくり、環境保護など、現代社会が抱える課題は多岐にわたり、それぞれが密接に繋がっています。デザイン思考では、これらの課題を個別に要素分解して対処する「工学的アプローチ」ではなく、「生態学的なアプローチ」を重視します。これは、個別の症状(課題)に局所的に対処するのではなく、全身の流れを意識して環境全体を整えることで、結果的に個別の課題も解決されるという考え方です。この包括的かつ連関的な課題の捉え方が、地域のような単位が抱える社会課題に取り組む際に特に重要とされています。


社会の「構造の設計者」となる

デザイン思考における「デザイン」は、単なる見た目の良さや装飾ではなく、「誰かの課題を解決することを目的としたモノの設計」という広義な意味を持ちます。社会の「構造の設計者」となるためには、以下の4つの要素が重要です。

①課題の「可視化」と「言語化」

社会課題は抽象的で広範な場合が多く、そのままでは事業に変換しづらいという問題があります。デザイン思考は、ユーザーの経験を深く理解する「共感」から始まり、本質的な課題を「問題定義」するプロセスを通じて、抽象的な課題を「自分ごと化」できる具体的な形に落とし込みます。この「可視化」と「言語化」は、多くの人に理解を深めてもらい、共感を広げるために不可欠です。

②実践と試行錯誤による改善サイクル

デザイン思考のプロセスは、「共感」「問題定義」「アイデア創出」「プロトタイプ(試作)」「テスト(検証)」という反復的なステップで進められます。特に重要なのは、「早く形にして早く失敗し、そこから学んで改善する」というサイクルを繰り返すことです。これにより、不確実な状況下でも柔軟に意思決定を行い、より良い解決策へと磨き上げていくことが可能になります。例えば、Webカメラを導入して保育の「見える化」を進めたチャイルドハートの事例では、弁護士からの指摘にもかかわらずリスクを負って導入し、問題点に対応しながらサービスの質を向上させていきました。

③多様な関係者との協働

社会課題の解決には、企業、NPO、行政、地域住民、専門家など、多様なバックグラウンドや専門性を持つ人々の連携と協働が不可欠です。デザイン思考は、異なる視点やアイデアを統合し、新たな価値を創出するための組織全体のマインドセットや文化として浸透することが重要です。地域課題解決に取り組む際に、外部から一方的に解決策を持ち込むのではなく、地域の人々を巻き込んだ「共創型」のビジネス展開が長期的な成功に繋がるとされています。

④デジタル技術の活用

データ分析やAI、IoTなどのデジタル技術は、デザイン思考を実践するための強力なツールとなります。例えば、札幌市では人流データや決済情報を分析し、観光客の行動パターンを把握して誘客プロモーションを構築する事例があります。また、AIによるユーザーインタビューの分析や、デジタルスキルとデザイン思考を組み合わせたDX人材の育成も進められています。


まとめ

デザイン思考は、単なるビジネス手法に留まらず、社会が直面する複雑で抽象的な課題に対し、人間中心のアプローチで本質的なニーズを探り、多様なアイデアを試行錯誤しながら、持続可能な解決策を「設計」していくための強力な思考法です。社会の「構造の設計者」となるためには、このデザイン思考のマインドセットを組織全体に浸透させ、多様なステークホルダーと協働し、小さくても成功事例を積み重ねていく地道な努力が求められます。これにより、社会の課題をビジネスチャンスに変え、新たな価値を創造し、より良い未来を築くことができるでしょう。

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